「暗殺教団」伝説の地
2008年に登場し、世界的に人気を博したゲーム「アサシンクリード」。
読者の皆さんのなかには、一度はプレイした方もいらっしゃるのではないでしょうか。
※ちなみに私は一度もプレイしていません。。笑
今回は、アラブをちょっとでも身近に感じてもらいたい、ということで、ゲームの舞台という観点からアラブ世界の見どころを見てみようと思いました!
今回取り上げるマスヤーフ城は、アサシンクリードで暗殺教団の根城として登場する「マシャフ砦」にあたるものです。本作を一度でもプレイしたことのある方でしたら、このネタは胸アツ間違いなしです。。
ということで、これからマスヤーフ城の概要を紹介します!
ニザール派の拠点
さっそく訳のわからない単語が出てきた、、と思った方へ。。
この単語は城史を理解するうえで重要な知識になるので、きっちり触れます。安心してください。
ニザール派は、シーア派の一派であるイスマーイール派の後継者争いに起因して分離した宗派です。1094年、兄のニザールではなく弟に指導者(カリフ、イマーム)の地位が移譲されたことで、ニザールを支持する勢力が分離して成立しました。
彼らは、権力闘争に敗れたニザールの息子ハサニ・サッバーフが居城としていたアラム―ト城(現イラン)を拠点に勢力を伸長、一帯のイスラーム諸王朝と対立し、ときに暗殺の実行という強硬手段にも出ました。そんなニザール派がシリアで築いた拠点のひとつとなったのがマスヤーフ城でした。
「暗殺教団」の根城
世界で約1億本のメガヒットを叩き出したゲームシリーズ「アサシンクリード」。
その初作品の主人公アルタイル生誕の地で、暗殺教団の根城とされた「マシャフ砦」は、まさにここマスヤーフ城のことを指しています。
当然、ゲームはゲームですので、アサシンクリードのストーリーと史実とは必ずしも一致しません。しかし、ここに教団の根城が置かれていたということは明白な事実であり、歴史的に重要なことは間違いありません。
YouTubeでアサシンクリードのマシャフ城の様子を見ましたが、もうロマンを感じずにはいられませんでした。タイムスリップして当時の様子を見てみたいものです・・・。本当に。
シリア諸勢力との対立
1162年、マスヤーフ城に拠点を置いたシリアの二ザール派の指導者となったラシード・ウッディーン・シナーンは、教団の勢力圏を守るため、周辺の諸勢力との外交戦を開始しました。
当時、シリアはまさに群雄割拠の様相を呈していました。
シリアでは、「聖地奪還」の旗印のもとヨーロッパから侵攻した十字軍国家が建国され、それに対し、アレッポを拠点とするザンギー朝や、イスラーム世界の英雄サラーフッディーンの勢力が対抗していました。
実際、弱小勢力のニザール派がこの乱世を生き延びるには、なりふり構っていられなかったのでしょう。教団を守るためなら敵対勢力の殺害も厭わないという思想のもと、教団兵士(フィダーイー)が厳しい訓練を重ねていたのも納得のいく話です。
ニザール派による暗殺工作
多くの事例について真偽は定かではないものの、十字軍国家で頻発した有力者の暗殺はニザール派の暗殺工作によるものだという説もあります(一部の事案については立証済)。個人的には、のちに教団が「暗殺教団」としてヨーロッパに流布する契機になったのも、十字軍の伝承に拠るところが大きいのではないかと思います。
このニザール派の前では、英雄サラーフッディーンでさえも暗殺の対象とされていました。2度にわたる暗殺未遂ののち、サラーフッディーンはついに教団の拠点マスヤーフへの進軍を決意しました。
この攻囲城、サラーフッディーンの軍勢は城を包囲したのみで、戦うことなく休戦協定が結ばれました。このサラーフッディーンの心変わりの理由について、言い伝えでは、寝室に毒を持ち込まれたことに恐れをなして攻撃を諦めたと伝えられています。
この逸話を聞くと、「暗殺教団」のイメージが増幅されるかもしれませんが、形成期の教団にとっては苦難の時代であったのも確かで、教団はこの時代の苦難を乗り越え、現在もイスラーム世界の少数宗派として受け継がれています。
ニザール派財団による修復
1270年にマムルーク朝の指導者バイバルスにより廃城とされたのち、マスヤーフ城は二度と城としての機能を果たさなくなりました。
以後7世紀以上も放置された城でしたが、ニザール派の第49代イマーム(指導者)のアーガー・ハーン4世が運営するアーガー・ハーン開発ネットワークのもとで2000年から修復工事が行われました。
※2019年1月現在、シリアは未だ内戦中ですが、インスタグラムの投稿写真を見る限りマスヤーフ城は戦火に遭うことなく保存されていると思われます。マスヤーフ城一帯はシリア政府側の勢力圏にあるので、おそらく今後も破壊されることはないでしょう。
いかがでしたか?
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